取り組み事例

門外不出の伝統祭りをオリジナル企画として再現。
新たな地域振興へ。

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月見のおわら

石畳と蔵。江戸の面影が残る静かな町、富山市八尾町が年に3日間だけ20万人もの観光客でごったがえす「おわら風の盆」。そして、「祭りを通じて、この町の魅力をもっと広く伝えたい」という想いから、その伝統をオリジナル企画として再現した「月見のおわら」。17年間の継続を通じて町に溶け込み地域振興に寄与しています。

富山県富山市八尾

月見のおわら

富山市八尾の各町・越中八尾観光協会・
おわら保存会・クラブツーリズム(株)

事業の概要と価値

「小さな町に20万人が押し寄せる」祭りの課題。

富山県越中八尾。急傾斜の石垣のうえに江戸の風情を残す家並みが碁盤状に残る静かな町です。人口2万人のこの小さな町に毎年9月の3日間、20万人以上の観光客が押し寄せる、伝統の祭り「おわら風の盆」。江戸時代から伝わる独特の優美な踊りが話題を呼び、いつしか全国からたくさんの人を集めるようになりました。

クラブツーリズムでも早くからツアーを組み、この人気の祭りに毎年多くの訪問客を送りこんできました。しかし、元来が観光用ではなく地域のための祭りだったこと、町がせまく観光客の受け入れ体制も整いにくいことなどから、「人があふれて落ち着いて踊りが見られない」「もっとゆったり祭りを楽しみたい」という参加者の声も目立っていたのです。

それなら、おわらを別の日にもう一度開催してもらえればお客様も落ち着いて踊りが見られる、町もさらに賑わうはずという思いから、オリジナル企画として「月見のおわら」はスタートしました。

  • メイン会場での踊り。多くの人で賑わう

    メイン会場での踊り。多くの人で賑わう

  • 開催中、多くの人出で賑わう八尾

    開催中、多くの人出で賑わう八尾

  • 灯籠が並び、幻想的な雰囲気を醸し出す町並み

    灯籠が並び、幻想的な雰囲気を醸し出す町並み

事業成功のポイント

「地域のために旅行会社としてやれること」が
かたちになった「月見のおわら」。

しかし、その提案には「年1回だから意味がある」「一事業者のためだけに祭りを再現なんて」という地元からの反対の声も。クラブツーリズムは、それに対してこう考えたのです。魅力あるものだからお客様にきちんと見てほしい。新しい「おわら」を、この町の良さをもっと広く伝える契機にしたいと。そうした姿勢でねばりづよく説得を重ねました。その背景には、町の立場に立って旅行会社ができることをしたい、というつよい思いがあったのです。

そうした思いが、まず越中八尾観光協会の会長を動かしました。おわら保存会会長も兼任していた会長が地元を説き、賛同を得た地区から参加してもらって「月見のおわら」をスタート。「風の盆」が終わった約ひと月のちの2日間、町はずれの駐車場を借りた、ほんとうにささやかな開催でした。

それでも毎年ツアー参加者は確実に増加、クラブツーリズム自らが責任をもって運営管理を徹底することで地元からの「月見のおわら」への評価も徐々に変わってゆき、17年経った現在では八尾の大部分、11地区が参加する大きな催しに成長を遂げたのです。

クラブツーリズムの「月見のおわら」担当者は振り返ります。
「八尾の人たちが大切にしてきたお祭りを私たちの手できちんと再現して、町の魅力をアピールしたかった。だから外注に頼らず40名の自社スタッフで交通整備や案内係、後かたづけ、ゴミ収集などの運営管理をすべて行なってきました。地元のかたには心配や迷惑をかけることなく「踊り」に専念していただくことで、お客様にもより大きな楽しみを感じてもらっています」

  • 会場整備や後かたづけなどのすべてをクラブツーリズムのスタッフ自らが行なって祭りを自律的に管理している。

  • 会場整備や後かたづけなどのすべてをクラブツーリズムのスタッフ自らが行なって祭りを自律的に管理している。

  • 会場整備や後かたづけなどのすべてをクラブツーリズムのスタッフ自らが行なって祭りを自律的に管理している。

  • 会場整備や後かたづけなどのすべてをクラブツーリズムのスタッフ自らが行なって祭りを自律的に管理している。

事業の効果と今後の展望

地元の価値を伝えるのは祭りだけではない。

「月見のおわら」には、毎回5~6,000人のクラブツーリズム会員が参加、さらにクチコミを通じてその倍以上の観光客が訪れているといいます。ツアー参加者には限定金券を配って消費喚起を促すことで、みやげもの店や喫茶店なども夜間営業を始め、地元の経済活性や町の賑わい面も変化を見せています。

現在では、地元ボランティア観光ガイドと連携し関西客向けに町歩きミニツアーも定期的に実施中。石畳の坂道や蔵、江戸風情ある町並みを散策するなど、四季を通じた八尾の魅力の紹介も始まっています。

地域と協働したオリジナルのお祭りやイベントによる集客はクラブツーリズムのもっとも得意とするモデル。月見のおわらの他にも、世界遺産の合掌の里・五箇山(富山県)の貸し切りライトアップイベントや下呂温泉(岐阜県)の夜桜花火など、宿泊を伴った送客実績を築いています。

しかし、地域に人を呼ぶ手だては、祭りだけではありません。
食、自然、歴史遺構、文化財など潜在的な価値はあるのに知られていない地元の魅力は全国にまだまだたくさんあります。

それを観光ツアー化して全国のお客様へ紹介し、たくさんの人を送り出すことがクラブツーリズムの役割。その際に欠かせないのは「これにふれてほしい」「この体験をしてほしい」という地元のつよい思いです。それがあって初めてツアー商品はできあがるのです。

ウチにもあれが! こんなとっておきが!という隠れた素材をどんどん提案していただいて、共に育て、広く知ってもらい、多くの人に楽しんでほしい。それがクラブツーリズムの願いです。

  • 開催期間中、賑わう土産物店

    開催期間中、賑わう土産物店

  • 江戸情緒あふれる八尾の街並み

    江戸情緒あふれる八尾の街並み

  • おわら以外の時季も観光客が増えており、地元のボランティアガイドが町の魅力を紹介する。

    おわら以外の時季も観光客が増えており、地元のボランティアガイドが町の魅力を紹介する。

おわら風の盆を再現した月見のおわら

おわら風の盆を再現した月見のおわら

おわら風の盆は富山県中部の越中八尾に江戸時代から伝わる伝統の行事で、哀愁漂う胡弓の調べが奏でる越中おわら節に合わせて、優雅な女踊りと農作業を表現した男踊りが坂の町八尾を流して回ります。
月見のおわらは、この風の盆を再現し、約ひと月あとの満月の頃にクラブツーリズムと町が連携して行なうオリジナルの祭りです。
風の盆の町流しは八尾の町村それぞれのエリアで自然発生・同時多発的に行なわれますが、月見のおわらでは各町村の踊りを一堂に会して鑑賞できるのも魅力です。
八尾は江戸期から養蚕や薬、木材、木炭、和紙の交易で栄えた町で、崖の上の坂道に並ぶ家々にはいまもその面影が色濃く残り、散策にも最適の静かな町です。

クラブツーリズム【月見のおわら特集ページ】はこちら

地域からの声

地元民にとって大きな価値をもたらせた、
本祭りとはまた違った「月見のおわら」の意義。

越中八尾観光協会/企画・営業リーダー 楠 純太 氏

越中八尾観光協会/企画・営業リーダー 楠 純太 氏

「おわらを別の日にもう一回」という申し出は、町としてはまったく想定外のことでした。しかし、ちょうどナホトカ号の重油流出事故があって北陸全体が観光的に大きな打撃を受け元気がなかった頃です。「おわら」が北陸再生のきっかけになれるならチャレンジしてみる価値はある!そうした気運が後押しとなり、観光協会の会長がリーダーシップをとって「月見のおわら」をやってみようと。そうしたスタートでした。
最初の4年間はほんとに小規模な、町はずれでの開催です。やがて商店街から「もっと町を潤すために活用したい」という声があがり、踊り手たちにも「自分たちの文化としてのおわらをじっくり楽しみたい、きちんと踊りたい」という意識が芽生えていった。それで5年目から徐々に町を巻き込んで大きくなり、10年目以降は現在のかたちに落ち着いて、いまは恒例行事として完全に町に溶け込み、風の盆と共存しています。
我々地元の人間も、管理運営をクラブツーリズム側に責任をもってサポートしてもらえることで祭りを純粋に楽しめるし、また、祭りの維持継続のための資金を得る機会ともなっています。
八尾は「おわら」のような伝統文化が生き、美しい町並があり、それを大切にしながら現に人が住んでいる場所です。「月見のおわら」を、本祭りとともに八尾の素晴らしさを体験してもらうデモンストレーションの場として捉え、多くの人に四季を通じて町歩きを楽しんでほしいこと、外国人観光客にも八尾やおわらの魅力を知ってもらいたいことを次の目標としています。

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