取り組み事例

「観光」こそが復興のキーワード。
官民共同で外国人旅行者を東北へ!

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東北交流拡大モデル事業

 東北を観光先進地へ。復興庁が官民共同で取り組む「新しい東北」交流拡大モデル事業は、東北の魅力を世界へ発信し、外国人観光客を呼び込むことで新しい復興の姿をめざすものです。
 近畿日本ツーリストも、「日本リピーターを東北へ、さらに人と人とのふれあい創出で東北リピーターをつくる」という思いで東北の観光復興に貢献しています。

観光地ビジネス創出の総合支援

復興庁・近畿日本ツーリスト株式会社

知名度を高め、外国人旅行者を東北へ!
観光の力で復興をめざす復興庁のプロジェクト。

 東日本大震災から7年。住宅などインフラの復旧が一定程度進み、東北の復興は新しいステージに入りました。復興庁が新たな目標とするのは産業・生業の再生で、とくに地域産業全体に影響するキーワードとして「観光」を復興の大きな重点としています。
 その主眼はアジアを中心としたインバウンド客の取り込み。東北を世界へ発信して知名度を上げ、東北六県へより多くの外国人観光客を呼び込むことで復興の新たな姿を創出しようとするものです。
 そこで進められているのが官民共同プロジェクト「新しい東北」交流拡大モデル事業(以下、「新しい東北」事業)です。プロジェクトを推進する復興庁の藤原孝志専門調査官(復興特区担当・観光担当)は、その背景とねらいをこう説明します。
 「平成29年1月~12月における日本全国の外国人宿泊者数約7,180万人に対して東北六県は約94万人と、まだ全体の1.3%程度にすぎず、東北はインバウンドの波に乗り遅れているという危機感があります。
 もっと多くの外国人に来てもらい、いろいろな体験をして東北の魅力を感じてもらいたい。そのために地域のさまざまな産業が「観光」に関わり交流しあう総合的な取り組みが本事業です。
 民間の力を借りて、受け入れ体制を整え魅力的な観光商品をつくる。東北を外国人観光客へアピールしながら、将来につながる事業を持続的に育ててゆく。それが本事業のねらいです。

 「新しい東北」事業は、平成28年度・29年度をつうじて、東北のブランドイメージ創出、受け入れ体制強化、「学びの場」としての魅力づくり、観光先進地への新たな試み、という大テーマのもと、いくつもの事業が官民共同で並行してすすめられました。
 近畿日本ツーリストも2年間に渡りこの事業に参画し、東北地域における訪日外国人観光客の受け入れ体制整備、インバウンド向け東北観光商品の企画販売、訪日外国人に向けた東北地域PR、販売を目的とした海外旅行博・商談会への出展、海外旅行会社を東北地域に招待し東北地域の旅行商品の企画販売を促進させるファムトリップの実施など、「観光による復興」のためのさまざまな事業を展開してきました。

世界から東北へ呼ぶ「しかけ」をどうつくるか。

ASPとはApplication Service Provider=地域専用の商品予約販売システムのこと。地域が発信する観光情報や商品メ 事業展開にあたって、近畿日本ツーリストはすでに日本を訪ねたことのある外国人旅行者の取り込みに焦点をしぼりました。以前に東京や京都など主要観光地を訪れている日本リピーターに、次はどうやって東北を選んでもらうのか。そして東北ファンになってもらうのか。それがプロジェクトの出発点でした。
 プロジェクトの名は「東北を個人旅行(FIT)の聖地に! 東北の今を人が伝える 東北TOMODACHIプロジェクト」。キーワードは「人と人のつながり」、すなわち、「人に会いにゆく」動機をつくることを各事業の目的、立脚点としたのです。
 地域の人びととの出会いやふれあいは、観光名所やお祭りと同様の大切な観光資源であり、地域ならではの魅力。それこそがまた訪ねたくなる動機になるはずと考え、そうした出会いの場をつくりだすことで東北の魅力をアピールしようという基本的な姿勢でした。
 具体的には、地域の事情に合わせながら、民泊(ホームステイ)を核として祭りやイベント、ゆたかな自然、食や震災体験などで地域の人びととふれあえる機会を創出してゆくことをめざしました。

どんな人が来るのか、どうおもてなしすればいいのか。
まずは相手をよく知るための勉強会を実施。

 すでに教育旅行やインバウンドでも民泊(ホームステイ)プログラムには実績のある近畿日本ツーリストですが、東北の受け入れ体制を整備するにはさまざまな課題がありました。
 その大きな要因は、東北の人たちが外国人旅行者に慣れておらず、受け入れに少なからぬ不安と抵抗を抱いていたこと。これまで日本人民泊を受け入れてきている家庭でも外国人旅行者に対しては経験も自信もなく、なかなか踏み切れないケースも多かったのです。
 そうした不安を払拭し、外国人旅行者の受け入れに自信をつけてもらうため、近畿日本ツーリストでは三つの手順で地域の方がたの理解と意識改革に取り組みました。
 ひとつには、相手をよく知るための勉強会を実施したこと。
 この勉強会は自治体担当者や観光事業者、民泊関係者を対象として、異言語や文化・習慣のちがい、接客の心構えなどを具体的に知ってもらうための場です。日本在住の外国人を招き、地域の集会場や食堂の畳広間などで文字通り「ひざを突き合わせて」異文化を学んでもらいました。
 さらに、勉強会に参加した外国人が実際に現地での民泊(ホームステイ)や文化体験に参加するなど、リアルなシミュレーションを行うことで受け入れの練習とし、外国人にふれ、慣れることで苦手意識の払拭を図りました。
 勉強会に参加し民泊(ホームステイ)を受け入れた地域の方からは「初めはどうすれば喜んでもらえるかわからず不安でしたが、実際にふれあうことでいろいろなことが実感できた。笑顔で帰る姿に民泊のやりがいを感じられた」といった感想をいただきました。
 こうした勉強会や民泊(ホームステイ)体験を青森県弘前市、岩手県陸前高田市、山形県戸沢村・大蔵村などを中心に繰り返し開催したのです。

  • 外国人受入勉強会の様子。外国人をどう、受入れたらよいのか?地域の公民館で、ひざを突き合わせて熱い議論となりました。(岩手県陸前高田市)

  • 事前にホームステイを外国人の方にしてもらい、受入民家の皆さんに、その感想を共有しました。苦手意識の払拭にはこういった地道な活動が効果的です。(青森県弘前市)

  • 外国人にとっても民泊(ホームステイ)はドキドキする体験。受入れ民家と同じだということが良くわかりました。
     

相手国を訪ねて文化や歴史、生活を知る。

 そして三つ目は、「来て」ではなくまず「会いに行く」の姿勢に意識を変えることでした。関係する自治体、観光事業者、受入民家がこれまでほとんど訪れたことのない相手国(タイ、台湾、インドネシア)を実際に訪問し、東北へ呼びたい外国人はどんな人たちで、どんな文化習慣をもち、いかなる生活を送っているのかを肌で体感してもらったのです。
 例えばタイでは、歴史や文化を理解するため国立博物館や寺院を訪問、生活や習慣を肌で感じるためタイ人家庭にホームステイ体験や交通機関の見学、加えて、タイを訪問する外国人旅行者の実態を知るため高級ホテルやバックパッカー聖地カオサン通りの見学などの視察調査を行いました。
 タイの生活や家庭環境を知り、互いにふれあい、お世話になることでタイ人への親近感がごく自然に生まれ、タイ人にも同じように東北を訪れ感動してもらい、東北を好きになってほしいというリアルなモチベーションを醸成することができました。後日、海外の旅行関係者やホームステイした先のタイ人を東北へ招待し、今度は彼らに東北で民泊(ホームステイ)を体験してもらいました。そして、再会をよろこび絆を深めた感動をはじめ、さまざまな東北観光や体験の様子がSNSなどを通じ彼らのナマの言葉で世界へ発信されたのです

  • タイの寺院を訪ね、タイ人の仏教に対する考えや国王に対する敬意について学びました。
     

  • タイ人家庭に実際にホームステイし、日本・東北との「差異」例えば家の大きさ、暮らしぶり、 食文化のちがいなどを実感しました。

海外旅行博で商品を売る、東北をPRする、ライバルを知る。

 海外視察先では、現地を知るための視察や調査だけでなく、旅行博でPRや商品販売を実施しました。
 現地での旅行博を地域情報発信のためのチラシ配りでなく自らの手で商品を「販売する場」としてとらえ、自治体、観光事業者、民泊関係者に積極的に商品を販売してもらったのです。
 ブースでのセールスをとおして、世界のさまざまな観光地と比較すれば東北の認知度は決して高くないこと、東北の旅行商品の価格がヨーロッパ主要都市観光とほぼ同額であることなど、世界中のどこの国でもがライバルになることを肌で実感してもらいました。
 同時にBtoBの商談会にも参加し、自分たちで造成した商品を彼の地の旅行会社にダイレクトにセールスしてもらいました。
その場をつうじて、海外の旅行会社には東北がまだよく知られていないことが痛感されましたが、商品内容は訪日旅行のリピーターへ提案したくなる魅力があるという評価を得ることもできました。
 後日おこなわれたファムトリップには、商談会で接触した旅行会社スタッフも参加し、東北の魅力を実際に見聞してもらいましたが、行程中には、海外で効果的に東北商品を販売するために何をすべきか、なにがポイントなのかなど有益な意見交換が行われました。

  • タイ旅行博での商品販売の様子。多くの自治体がJNTOエリアで地域PRをする中、自治体、観光 事業者が弊社のタイ人スタッフにまじっで商品販売のお手伝いをしました。「地域PR」と「商品販 売」の違いを実体験できました。

  • インドネシアの旅行博時に現地旅行会社との商談会に出席。東北ツアーとヨーロッパツアーの旅 行代金がほぼ同額と指摘を受けました。参加した自治体、観光協会の方々と共に「海外で戦うこと は世界に勝つこと」と、新たな目標が出来ました。

  • 台湾にて観光協会の方と共に民泊体験プログラムを販売する様子。直接、お客様に販売すること で、その難しさ、悔しさと売れた際の嬉しさの両面を実感することが出来ました。

  • タイからお客様を山形県大蔵村に迎えます。タイに訪問した際にはマックスさん(右)のお宅に ホームステイしました。3ヶ月ぶりの再会。友情が深まります。

二次交通を確保するバスツアーを海外旅行会社の商品に組み込んで販売。

 東北が抱える、公共交通機関が不足し運行数も少なく、雪深い冬にはさらに不便という二次交通の課題にも取り組み、外国人旅行者が手軽に東北各地へ足を運べるしくみを構築しました。
 クラブツーリズムが外国人旅行者向けに自らの外国語サイトで告知・募集している「YOKOSO Japan Tour」を活用して東京や仙台からのアクセスを提供し、仙台からバスやタクシーで東北各地を訪問するツアーを造成、販売したのです。
 また、この「YOKOSO Japan Tour」を海外旅行会社がつくるツアーパッケージに組み込むことで、廉価で、かつ販売効率の高い旅行商品企画を実現しました。
 結果、2017年4月から実施した事業において、当初目標の237%の送客数、235%の延べ宿泊者数を達成することができました。

事業結果をふまえ、持続可能な取り組みとして継続する。

「外国人に慣れていない、苦手という地域の意識を変え、受け入れのモチベーションを形成し、自治体や事業者が連携しながら民泊(ホームステイ)体制を整える。その上で、域内の各地へ運ぶ二次交通を確保する。それで初めて自然や祭りという東北のもつ観光資源が生きてくる。今回の事業では、それがうまく試せたと思います」
復興庁の藤原専門調査官は将来に向けて、こう言います。
「ここで試し、つくりあげたものを、将来を見据え継続してゆくことが大前提です。官民が力を合わせて東北を盛り上げ、2020年には外国人宿泊者数を150万人まで押し上げたい。目標は観光先進地・東北の実現。それまで復興は道半ばだと考えています」

クラブツーリズムのインバウンドツアー YOKOSO Japan Tour

 YOKOSO Japan Tourは、クラブツーリズムが国内で一般に募集しているツアーの中から訪日外国人旅行者向けコースを厳選したもの。インバウンド向け専用英語サイト「Club Tourism YOKOSO JapanTour」(http://www.yokoso-japan,jp)で、東京、名古屋、関西、札幌、福岡出発のバスツアーなど常時200コース以上を外国人旅行者へ向けて募集しています。
 また、外国人専用ツアーだけでなく、訪日外国人と日本人が同じツアーに参加する「混乗型ツアー」もあり、東北でも仙台を起点としたさまざまなバス・タクシーのツアーを設定しています

  • クラブツーリズムYOKOSOJAPAN

  • YOKOSO JAPAN BUS

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