取り組み事例

外国人を「目利き」に、外国人の視点で
着地型観光インバウンド商品を造成。

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インバウンドを見据えた着地型観光調査

東京オリンピックへ向けて、いっそうの増加が予想される訪日外国人旅行者。リピーターや個人旅行者へ向けて日本全国がインバウンド対応に取り組み、訪日外国人にも魅力ある地域をつくるために、観光庁は、日本に住む外国人をアドバイザーとして活用し着地型滞在プログラムを核とした観光資源の造成―「外国人が見たい日本」づくりを支援しています。近畿日本ツーリストグループも、4つのモデル地域におけるインバウンド対応の実証や課題抽出、問題解決をお手伝いしました。

インバウンドを見据えた着地型観光調査

観光庁観光地域振興部観光資源課
近畿日本ツーリスト株式会社

事業の概要と価値

インバウンド事業のモデル地域の調査事業を。

観光庁が主導する「インバウンドを見据えた着地型観光調査」事業(以下、インバウンド事業)では、各地で造成や普及がすすむ着地型の滞在プログラムをインバウンドにも対応させ、訪日外国人にとっても魅力的な観光資源を造成・開発してゆこうという取り組みです。
具体的には、①着地型観光に取り組みインバウンドにも積極的な先進事例の調査 ②意欲はあるがまだ取り組み途上の4モデル地域を選定し、実施体制の構築や手法を検討する ③第三者有識者会議委員会の運営 で、近畿日本ツーリストはその全般において事業の実施をお手伝いしました。
とくに②の4地域モデル調査では、それぞれの地域でながく日本に在住し、日本の文化や事情にも理解の深い外国人を「目利き」(アドバイザー)とした上で域内の資源視察やモニターツアー、ワークショップを実施。地域の観光資源を外国人目線で捉え直し、日本人では気づきにくい問題点の抽出や新たな魅力の発掘、魅力あるインバウンド商品の造成につながる具体的な検討を行ないました。

事業成功のポイント

富士山登山以外で旅行者をどうもてなすか。
――レンタサイクルによる富士市の試み。

モデル地域に選ばれたのは千葉県・成田空港周辺地域、静岡県・富士地域、石川県・加賀地域、鹿児島県・鹿児島市の4エリア。ここでは静岡県・富士地域の事例を例に、その取り組みの内容や意義をご紹介しましょう。
富士市は、富士山観光の拠点のひとつでもありますが、富士山までの二次交通が十分に整備されておらず、富士宮経由で五合目まで2時間かけて行くバスが1時間に1本あるだけ(しかも夏季シーズン以外は土日のみ)で、マイカーでなければ存外不便なロケーションです。そのため、富士山をめざして新幹線の新富士駅を訪れた外国人旅行者は、高い料金を払ってタクシーを利用するか、あるいは登山を断念するケースも少なくありませんでした。
地元の富士山観光交流ビューローに派遣されている近畿日本ツーリストの観光プロデューサーは、いいます。「Fujiと付いているため、新富士駅で下車する外国人旅行者は意外に多いんです。ここからすぐに行けると勘違いして。でも、来てみたらそうではない。こうした、〈登山を断念した〉人たちをどうもてなすか。登山以外で何をしてもらえばいいのか。そこで浮かんだのが無料レンタサイクルの活用でした。富士山は路上からも望めるし海岸沿いにサイクリングロードもある、富士山を眺めながら気持ちよく走ってエリアの名所や名物店を回ってもらおうと」

  • 富士山を眺めながら走れる道路

    富士山を眺めながら走れる道路

  • ルートマップに記載されたスポットを訪ねる外国人の方々

  • ルートマップに記載されたスポットを訪ねる外国人の方々

  • ルートマップに記載されたスポットを訪ねる外国人の方々

外国人がモデルコースを実地走行して検証。

そこで、隣接する静岡市とも連携して、新富士駅を起点に富士山ビューの隠れた名所・富士川大橋や江戸の面影が残る蒲原宿など周辺の見どころを4時間かけてめぐる約12kmのモデルコースを設定、実際にルートを走って検証を行ないました。
インバウンド事業の4つのモデル地域では、ウェブサイト「ジャパン・トラベル.com」(日本在住外国人や旅行者による約2万件の観光情報レポートを英語など多言語で掲載)を活用して外国人目利きやモニターツアー参加者を募集し、日本文化や習慣に精通した立場から実質的な意見を得ています。
富士の案件でも静岡に永く住むニュージーランド出身のグレアム・セイヤ氏が目利きとして参加、モデルコースを走り、外国人旅行者に魅力的な要素はなにか、改善すべき問題点は、などの検証を行ないました。
その結果、トラックなど交通量の多い幹線道路は非常に危険と感ずること、コースがわかりにくい箇所もあるが外国語表記は道路交通法の問題から簡単には設置できないこと、大通りよりも生活感のある裏路地や界隈をゆっくり走る体験が歓迎されること、などのポイントが浮上。モデルコース案は、内容は充実しているもののそのままでは外国人観光客にとって快適さを欠く要素もあることがわかりました。

  • 実地走行にあたって説明を受け、準備する参加者の方々

  • 実地走行にあたって説明を受け、準備する参加者の方々

  • 実地走行にあたって説明を受け、準備する参加者の方々
  • 走行を終えた後の検証

    走行を終えた後の検証

事業の効果と今後の展望

2時間で走り「生しらす丼」を食すショートコースも設定。

そこで、まずは英語の詳細なルートマップを作成。外国人にもわかりやすい目印表記を工夫し、グレアム氏からも要請のあったコンビニエンス・ストアやトイレの位置も記載しました。
さらに、より手軽にサイクリングを楽しめるように、新富士駅からのショートコースも新たに設定。これは富士山観光交流ビューローが参加したプロジェクト「富士山しらす街道」の拠点である田子の浦港漁協食堂(漁協のせり販売所を簡易食堂として、海を見ながら獲れたての生しらす丼を食せる/当HPでも紹介しています)を折り返し点として名物しらす丼を味わい、海沿いの岸堤防サイクリングロードを走る約2時間のミニトリップで、グレアム氏の意見も反映されたものでした。この2コースのマップを作成し、レンタサイクルの用意も5台から10台に充実させてサービスをスタート、すでに一定数の外国人利用者を得ています。
コース途中の訪問先での英語対応の充実、ヘルメット着用など安全面の確保、ファミリー向け対応などまだまだ課題は残りますが、将来的にはこのショートコースと並行して、由比、富士川、沼津などの周辺地域との広域連携を視野にステーションをいくつも配置し乗りすて利用ができる有料のレンタサイクル・システムの構築も可能になります。
「来てほしい」というより「来てしまった」観光客へどう対応するか。空いてしまった時間をどう楽しくすごしてもらうかという観点から逆転の発想で地域の魅力をアピールする。さまざまな今後の可能性を秘めたユニークな取り組みです。

  • 田子の浦港漁協食堂の生しらす丼

    田子の浦港漁協食堂の生しらす丼

  • 今回の事業で作成されたMAP

    今回の事業で作成されたMAP

外国人による11万件の日本写真・動画を12か国語で紹介する
ジャパン・トラベル.com

  • ジャパン・トラベル.com

    「外国人による、外国人のための、日本観光情報メディア」として、記事総数は国内ナンバー1、650万ページビューというジャパン・トラベル.com。

  • ジャパン・トラベル株式会社 テリー・ロイド代表取締役社長

    ジャパン・トラベル株式会社のテリー・ロイド代表取締役社長。
    1983年に初来日。東京を本拠地として日本と世界をつなぐビジネスを展開しています。自転車で日本各地をめぐりおいしい地元料理と地酒をあじわうことがなによりの楽しみ。

ジャパン・トラベル.comは外国人による、外国人のための日本観光情報サイトです。日本各地に在住する外国人を「地域パートナー」として登録し、彼らを中心に外国人観光客など約6,000人がナマの日本情報を世界へ向けて多言語(英・仏・西・独・中・韓・タイ・ポルトガルなど12か国語)で紹介、外国人視点からの観光、宿泊、食など約2万件の記事と11万件の写真・動画が掲載されています。
サイトの運営は、東京に本社を置き内外のビジネスコンサルティングなどを行なうジャパン・トラベル株式会社。代表取締役社長のテリー・ロイド氏は、永く日本でビジネスを展開するニュージーランド人で、「東日本大震災でインバウンドが激減し、日本から逃げ出す外国人もめだちました。実際は安全なのに、正しい情報が世界に伝わっていないんですね。この魅力的な国へ震災前と同じようにたくさんの人に来てもらうため、正確な、生きた情報を世界へ発信しようと」ジャパン・トラベル.comを立ち上げたのです。
「地域パートナーは、フレンドリーで地域に溶け込んでいること、日本が好きで日本をプロモートする意欲があること、レポートがきちんと書けること、を条件に全国から在住外国人を募りました。いまでは田舎を中心に全国で60人以上の地域パートナーをネットワークし、彼らを中心として地域に根ざした情報を伝えています」
今回の「インバウンド事業」の目利きとなった外国人もジャパン・トラベル.comを通じて募ったもので、4案件それぞれで日本人の気づかないことや発想の違いなどさまざまなアドバイスを行ないました。
「外国人に対する先入観から、受け入れに自信がない地域や施設はまだまだ多い。でも、外国人旅行者側ではもっと自由に個人旅を楽しみたいリピーターや長期滞在者が急増しています。その両者を生きた〈情報〉でうまくリンクさせて、〈来てほしい〉気持ちと〈訪ねたい〉気持ちをハッピーにつなぎあわせたい」

地域からの声

静岡県に永く在住し地域に溶け込んだ立場から。
サイクリングコースづくりの「目利き」に。

静岡県藤枝市/グレアム・セイヤ 氏

静岡県藤枝市/グレアム・セイヤ 氏

外国人、特に西洋人の多くは、最初は観光地を訪れますが、やがて混雑した観光地ではなくもっと静かで穏やかな場所へ行きたくなります。子ども連れなら間違いなくそうする。つまり田舎や里山、自然のなかへ行きたくなる。日本の、どこにでもある里山が外国人にとっては大変魅力のある場所で、海外の情報サイトには田舎のスポットも数多く掲載されるようになってきています。富士市のサイクリングツアーでも、寄り道感覚で普通の日本人の暮らしにふれられる細い路地をめぐりたくて、そういうコースづくりを提案しました。
受け入れ側の日本人はまず「コトバ」の問題で悩んでしまっています。けれどね、外国人にしてみれば言葉は通じなくてあたりまえ。それが逆に冒険のようでおもしろかったりするんです。まずは外国人を受け入れようという心こそが大切。日本の「ありのまま」こそが、私たちには大きな魅力なのですから。

~グレアム・セイヤ 氏~
富士市インバウンド事業で目利きを務めたグレアム・セイヤ氏。県内の川根温泉エリアに住み、ログハウスや農家民宿のプロモートも行なっています。剣道七段で国際剣道連盟理事を務め、剣道やアウトドアスポーツを通じてニュージーランドと日本を結ぶ活動も。

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