取り組み事例

「保存」から「活用」へ。
歴史的文化や伝統を語るストーリーを「日本遺産」として認定、
文化財を活用する地域の取り組みを支援。

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全国にある有形・無形の文化財を、地域自らが活性化のために新たな発想で活用する。
そうした取り組みを総合的に支援し、日本の魅力を象徴するブランドとして
国内外へアピールする文化庁の日本遺産事業が動き出しています。

文化庁

文化庁「日本遺産」

全国に多く点在する文化財を「物語」の視点で見直し、「保存」から「活用」へと価値を再創造してゆこう。そうしたねらいで文化庁が推進する日本遺産事業。平成27年度には各地の案件18件が認定され、その認定証交付とパネルディスカッション、ブース出展が行なわれた「日本遺産フォーラム」では、近畿日本ツーリストが運営をサポートしました。

文化庁「日本遺産」

文化庁文化財部記念物課
近畿日本ツーリスト株式会社

「保存」から「活用」へ
地域文化財の新たな価値創造の試み。

  • 文化庁スタッフの皆様(取材当時)

    文化庁スタッフの皆様(取材当時)

日本各地にある有形・無形のさまざまな文化財を、その歴史的経緯や地域の風土に根ざして伝承されている風習などから固有のストーリーを浮き上がらせる。そのストーリーに基づき、地域全体として文化財を活用することでその魅力を広く国内外へ発信してゆく。それが、文化庁が推進する日本遺産事業の概要です。

「文化財は、これまで保存することが中心で国民からすこし遠いイメージがありました。どうしたらもっと身近なものとして魅力を感じてもらい、実際に体験してもらえるのか。そのために、わかりやすいストーリーで各文化財をまとめ「日本遺産」として提示し、多くの人に知ってもらう。それが出発点です」


この日本遺産事業を中心的に推進する文化庁の髙橋宏治文化財部記念物課長は、事業のねらいをそう説明します。
日本遺産の公募にあたっては、40都府県238の市町村より応募があり、83のストーリーが提示され、「人を惹きつける、魅力ある物語ができているかどうか」という基準から18案が選ばれました。
茨城県水戸市・栃木県足利市・岡山県備前市・大分県日田市という遠隔地が「教育」というキーワードで連携した「近世日本の教育遺産群~学ぶ心・礼節の本源」、石川県能登半島の三市三町による「灯り舞う半島~ 能登 熱狂のキリコ祭り」、三重県明和町「祈る皇女斎王のみやこ 斎宮」、福岡県太宰府市「古代日本の「西の都」~東アジアとの交流拠点」など、いずれも独自の文化を新たな視点でとらえたストーリーが認定されたのです。

「文化庁としても提案されたものをそのまま選ぶのではなく、原案をもとに自治体と幾度もキャッチボールを重ね、さらに魅力的なストーリーづくりを行なって決定しました」

日本遺産を推進してゆくキーワードは「保護」から「活用」へ。

保存や説明を優先しがちだった文化財行政のみの枠組みに留まらず、広く観光や地域振興や産業振興などの部署と連携して文化財を新しい観点で捉える。それを地域活性化のために思い切って積極的に活用展開してゆくこと。それこそが日本遺産の立脚点であり、めざす地点だと髙橋課長は強調します。

「そうした試みのために、文化庁では、ボランティア人材育成や多言語掲示の整備へ向けた財政支援にとどまらず、各自治体が関連部署を横断連携する協議会を立ち上げてストーリーを強化し、日本遺産をブランドとして活用してゆくための実質的な支援やアドバイスを行なってゆきます」

具体的には、広範にわたる各分野の専門家を集積して「日本遺産アドバイザー」として人材バンク化し、地域の要請により派遣する支援体制を構築。「ストーリーづくりやその活用のために最適な人材を、うまく循環させるしくみをつくりたい。」

  • 高岡御車山(高岡市)

    高岡御車山(高岡市)

  • 煎茶をつくる山なり茶園(和束町)

    煎茶をつくる山なり茶園(和束町)

  • あばれ祭り(能登町)

    あばれ祭り(能登町)

「もっと自由に、
文化財を活かしきるストーリーを構築してほしい」

今年度18のストーリーが認定された日本遺産は、今後2020年の東京オリンピックに向けて100程度まで増える予定です。

「日本遺産ブランドを世界へ向けて発信し、世界遺産と同じように付加価値化してゆくのは文化庁の仕事。メディアの活用など、内外へのさまざまなPR活動を通じて日本遺産の認知度アップとブランド化を図っています。各地域はそのブランドを活かし、新たな価値を感じられる新しい観光商品の開発にも取り組んでほしい」
髙橋課長は、日本遺産のストーリーづくりにおいて、まだまだこれまでどおりの既成の枠組みや従来の自己規制に捉われている自治体も少なくないと指摘します。

「文化財に対してこんなことをしてはダメなのでは、とか、開発につながる切り口は文化庁にとがめられるのでは、という〈保存〉の概念が先行している提案が目立ちます。

〈……してはダメ〉から〈……することで活用を〉というのが、日本遺産に対する我々の基本的なスタンス。当事業に際しては、文化庁も従来の保存行政を思い切って変えよう、新しい挑戦をしようという意気込なのです。文化庁も変わる。だから地域も変わってほしい。それが日本遺産の大前提。そこから協働して新しい価値を生みだしてゆきたいのです」

  • 髙橋宏治・文化庁文化財部記念物課長(取材当時)

    髙橋宏治・文化庁文化財部記念物課長(取材当時)
    「実はね、文化庁のなかに正式な日本遺産の専門部署は、まだできてないんです。スタッフ一人一人が、文化財への愛を込めながらいまはボランティアチームのように活動しています。ぜひ、この思いに呼応してほしい」

日本遺産の普及により、文化財はすべての人の宝なのだという意識が広まれば、「保存すること」の大切さも並行して浸透してゆくはず。だから誰もが文化財をより身近に感じる、より開かれた自由な取り組みとして日本遺産事業を捉えてほしい、と髙橋課長は念を押します。
「日本遺産の活用がまちおこしや活性化につながることが当事業の目的でもある。そう、文化財は、もっと地域の核になるんです。

地域は、日本遺産に手を挙げることで郷土の再発見やアイデンティティの確認にもなるでしょう。第二回の認定へ向けたステップはもう始まっています。地域と国とが知恵とチカラを合わせて、世界に胸を張れるあたらしい日本遺産をつくってゆきましょう」

※肩書は全て取材当時のものとなります。

  • 臼太鼓踊り(人吉市~球磨村)

    臼太鼓踊り(人吉市~球磨村)

  • 若狭塗(小浜市)

    若狭塗(小浜市)

  • 長良川の鵜飼漁の技術(岐阜市)

    長良川の鵜飼漁の技術(岐阜市)

地域の歴史や特色を通じて日本の文化・伝統を伝える
「日本遺産」

文化庁「日本遺産」

 日本遺産は、地域の魅力として発信する明確なテーマをもち、その地に根ざして継承・保存されている文化財を中核としていること、それらをただ解説するだけに留まらないこと、の三要素を前提条件として認定され、ストーリーが単一の市町村で完結する「地域型」と、複数の市町村にまたがる「シリアル型」の二種類があります。
日本遺産魅力発信推進事業では
(1)情報発信、人材育成 (2)普及啓発 (3)調査研究 (4)公開活用のための整備の4つの事業を対象とし、地域が自立的に活性化へ取り組むしくみの構築を支援してゆきます。
2015年6月、第一回認定として「琵琶湖とその水辺景観」「四国遍路」「日本茶800年の歴史散歩」などの18件のストーリーが認定されました。今後、年一回文化庁が公募し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに100件程度が認定されてゆく予定です。

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