日本遺産事業は、認定開始から7年が経過し、各認定地域におけるアイデンティティの醸成やブランド化、収益化への取組が必要なフェーズに入ってきています。
近畿日本ツーリストは、令和3年度に文化庁が実施した「日本遺産周遊促進モデルの構築事業」を通じ、認定地域における取組の深化を支援。日本遺産ブランドの価値向上に貢献いたしました。
文化庁参事官(文化観光担当)
株式会社近畿日本ツーリストコーポレートビジネス
事業の概要と価値
地域に点在する有形・無形の様々な文化財を、歴史的経緯や地域の風土に根ざした、世代を超えて受け継がれる伝承・風習などを踏まえたストーリーに仕立て、総合的に活用する取組を支援している日本遺産事業。平成27年度にスタートしてから7年が経過し、全国47都道府県で認定されたストーリーは104件に。また、令和3年度からは新たなスキームとして、総括評価・継続審査の実施や、他の地域のモデルとなる重点支援地域の選定が行われ、日本遺産のブランド価値の底上げと強化を目指しています。
そうした中、近畿日本ツーリストが令和3年度に受託したのが、「日本遺産周遊促進モデルの構築事業委託業務」。各地域における日本遺産を活用した取組のさらなる深化を図るべく、モデル事業として、4つの重点支援地域の日本遺産ストーリーに係るコンテンツ造成を行い、その内容・成果を横展開していくための課題の把握、今後必要な対策の検討、及び具体的な提案を行うというものです。
文化庁参事官(文化観光担当)付
参事官補佐の髙橋伸之氏は、この事業のねらいについてこう説明します。「日本遺産は、個々の文化財の価値を認定しているのではなく、複数の文化財等で構成されるストーリーを認定しているもの。来訪者に、ストーリーの体験を通じて地域の有形・無形の文化財の理解を深めてもらい、地域のファンになってもらって、地域活性化につなげていくことを目的としています。本事業では、そのモデル的な取組として、それぞれ異なる環境や課題を持つ4つの重点支援地域においてストーリーを体感できるツアーを企画・実施、その内容や成果から、今後各地域が自立・自走していくためのヒントを得ることをねらいとしました」
文化庁スタッフの皆さま(取材当時)
事業成功のポイント
近畿日本ツーリストでは、日本遺産認定初年度から日本遺産をテーマにした旅行商品を造成・販売し続けている実績と、これまで文化庁の日本遺産事業の事務局業務を数多く実施してきた経験をもとに、4つの重点支援地域の課題や実状に合った、持続可能なツアーを企画・運営。加えて、各認定地域が日本遺産を活用して観光誘客や地域の活性化を実現するための一助として、実施したツアーの内容の紹介と、観光コンテンツや旅行商品造成において参考となる情報をプロの目線でまとめた、「日本遺産周遊促進のためのハンドブック」を作成いたしました。
事業を振り返り、髙橋参事官補佐は、「日本遺産事業を進めるうえで大事なのは、文化財の活用です。これまでも文化財の活用についてはそれぞれ努力してきていただいていましたが、総括評価、継続審査という仕組みを取り入れたこともあり、各自治体でもその意識は高まってきています。文化財は指定・保存という考え方が基本です。担当者に活用という観点での意識が不足してしまっている場合もあり、地域によって取組に対する温度差があるという状況も否めませんでした。そうした中、今回のような取り組みは、担当者に良い刺激を与えていると思いますし、実際、『新しい視点に気付かされた』という声も聞いています」と話します。
髙橋伸之・文化庁参事官(文化観光担当)付 参事官補佐
日本遺産パンフレット
日本遺産周遊促進のためのハンドブック
事業の効果と今後の展望
JAPAN
HERITAGEという文字がデザインされた日本遺産のロゴマーク。そこには、点在している有形・無形の様々な文化財を線でつなぎ、面で活用していくという思いが込められていると髙橋参事官補佐。「文化と観光と経済の好循環、これは文化観光推進法の理念でもあるのですが、複数の文化財をパッケージ化し、ストーリーとして活用・発信することで、最終的には保存につながっていくということも、きちんとメッセージとして伝えていきたいと思っています」
そして、日本遺産事業の今後の展望について髙橋参事官補佐は、「日本には、みなさんの知らない魅力的なストーリー、魅力的な地域がたくさんあります。それを国内外の多くの人に知っていただき、ストーリーの体験を通じてその地域のファンになってもらえるとうれしい。一方で、この日本遺産事業が、地域住民のシビックプライドの醸成につながっていくことも期待しています。我々も職員一丸となって、引き続き地域の取組を支援していきたいと考えています」と話します。
長崎(五島)でのツアーの様子
長崎(壱岐対馬)でのツアーの様子
明日香でのツアーの様子
日本遺産周遊促進モデル構築事業にて作成したハンドブックは以下よりご覧ください。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/nihon_isan/pdf/93793701_02.pdf