取り組み事例

「ハートと工夫」で実現する、
誰でもが楽しめるバリアフリーの旅。

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「誰でも、どんな観光地でも、必ず行けるはず、楽しめるはず」。クラブツーリズムでは、はやくから高齢者や障がい者へ配慮したユニバーサルツーリズムに注力し、20 年にわたり数多くの旅を実現してきました。
「条件が悪すぎる」「バリアフリー対応設備の改修費用が…」と悩む自治体へも、ユニバーサルツーリズムの観光まちづくりをトータルにサポートしています。

ユニバーサル対応
観光プログラムの開発

山梨県富士河口湖町・
クラブツーリズム㈱

事業の概要と価値

勉強会からモニターツアー、効果検証までトータルにサポート。

 2020 年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、全国の市町村でユニバーサルツーリズム(ハンディキャップのある人や高齢者など誰でも気軽に参加でき楽しめる旅や、そのための環境づくり)への意識が高まっています。これまで旅をあきらめてきた人たちへ向けて、新しい旅のチャンスと提案が広がっているのです。  世界遺産・富士山をめぐる観光地のひとつ、河口湖のある山梨県富士河口湖町でも、トイレや客室など施設の充実をはじめ、さまざまなアクティビティ体験や、路線バスやタクシー、遊覧船の乗降などバリアフリー化の対応をすすめてきました。  この富士河口湖町が、ユニバーサル環境をさらに向上させるため 2 年間にわたって行った「ユニバーサル対応観光プログラムの開発」事業をお手伝いしたのが、クラブツーリズムの「ユニバーサルデザイン旅行センター」です。  クラブツーリズムは、1997 年から、誰もが行ける、楽しめる旅づくりを先駆的に行っており、バリアフリー旅行を専門とした「ユニバーサルデザイン旅行センター」は、国内外で数多くのツアーを企画・実施しています。  この旅行センターに携わるベテラン・スタッフが、資源調査、勉強会、モニターツアー実施、今後の方向性の検討など、富士河口湖町の事業全般に参画し、20 年の経験によるアドバイスやサポートを行いました。

  • ユニバーサル観光勉強会の様子

  • ユニバーサル観光視察の様子

事業成功のポイント

ハードでなくハートで対応するバリアフリーの旅。

数回にわたる勉強会では、講師として町の担当者や地域の観光事業者の方々と話し合いを重ね、モニターツアーでは効果検証や課題の発見をともに確認し、解決方法を検討しあったのです。
観光庁ユニバーサルツーリズムの検討委員も務め、いくつかの地域で同様の事業に加わってきたそのベテラン・スタッフはこう言います。「どの地域も、バリアフリー化とはハード面をきっちりと整備することだという意識や先入観があり、お金がかかる、条件が悪くて改修できない、とあきらめているケースも多く見受けられます。でも、ハードが無理ならハート、つまり人のこころと工夫で、今ある資源を生かしながら対応できる場合も、実は少なくないのです。
段差は簡易スロープで解消する、狭い通路はヘルパーがついて車いすの動線を確保する、現地の福祉施設スタッフの協力もお願いするなど人の手助けと知恵があれば大抵のことはクリアできます。
我々が実際に行なってきたケニアのサファリ体験ツアーや四国遍路ツアーの様子を見ていただくと、多くの自治体の方は驚かれ、バリアフリー化が進んでいそうにない地域でもツアーが組めた、ならウチもできるはず、という意識になってもらえる。富士河口湖町でも、そういう視点や意識づくりからスタートしました」

  • 効果検証や課題の発見を確認し解決方法を模索するためモニターツアーを実施。

  • 簡易スロープで段差を解消

事業の効果と今後の展望

つねに観光客の視線でバリアフリーを考える。

 そうした意見交換を経て、モニターツアーでは車いすでの酒蔵見学や視覚障がい者のほうとうづくり体験、自然観察路散策などを実施し、好評を得ました。受け入れ側スタッフも全行程を体験することで、「こういうハンディキャップをおもちの方には、こう配慮すれば対応できる、喜んでもらえる」という意識が高まり、商品造成につながったのです。
いつも各地の自治体の方にお伝えしていることですが、とクラブツーリズムのベテラン・スタッフは、こうアドバイスします。
「ユニバーサルツーリズムの観光まちづくりというと、地域の方々は、たとえば地元の車いすの方を呼んで段差の高さを測って、では改修、費用は…といった対応を思い浮かべると思います。
クラブツーリズムは、県外からお越しになる障がい者や高齢者を前提として、つねに「観光客」の目線で見て考えます。この段差は簡易スロープで大丈夫だ、施設にバリアフリートイレがなければ近隣の施設のトイレを使わせてもらおう、入浴介助に手が足りないから地域のヘルパーさんの力も借りよう、というふうに一つ一つ障壁を解消してツアーを成り立たせてゆくのです。富士河口湖町でも、地元の福祉施設スタッフの協力も得て、参加者に温泉入浴やアクティビティを楽しんでいただきました。
このように、誰もが楽しめる旅の実現のためには地域の協力が欠かせません。地域の方々にも前向きな意識と意思をもって、広く障がい者や高齢者を迎えてもらいたいのです。
そのための勉強会やワークショップ、現地調査や分析、商品造成、集客、告知やPR、人材育成まで、トータルなお手伝いをすることが我々の役割だと考えています。地域の取り組みを広く紹介し、人を集め、地域とともに「ユニバーサルツーリズムの観光まちづくり」をつくることで、地域の活性化につながればと思います。」

  • モニターツアーの実施例(酒蔵見学)
     

  • モニターツアーの実施例
    (ほうとうづくり体験)

  • モニターツアーの実施例
    (生物多様性センター遊歩道)

〈クラブツーリズム寄り〉四国遍路からケニア・サファリ体験まで。
20年前からユニークなバリアフリーの旅を手がけてきました。

 クラブツーリズムは、1997年から誰でもが楽しめるバリアフリーの旅づくりに注力しており、専門のユニバーサルデザイン旅行センターが「杖、車いすで楽しむ旅へ出かけましょう」をスローガンに、日帰りバスツアーから海外クルーズまでバリアフリー旅行を数多くご用意し、専用パンフレットを通じて多くのお客様にご参加いただいています。
 無理のないゆったりした日程、車いすで乗降できるリフト付き専用バスの導入に加え、参加者の介助やお手伝いをしながら旅を一緒に楽しむボランティアスタッフ=トラベルサポーターの同行が、その特徴。約300名の介護関係有資格の方がトラベルサポーターとして登録しており、自らも旅を楽しむ立場でツアーに参加しながら参加者の荷物を運んだり、食事の取り分け、車いす移動などをサポート。互いに交流を深めて「サポートする側もされる側も楽しめる旅」の楽しみを広げています。

地域からの声

「こういうことをすれば喜んでもらえる」
という対応事例を増やしてゆきたい。

富士河口湖町 観光課観光振興係/久保拓夫係長

志上田市シティプロモーション推進室 室長/小林修氏

 富士河口湖町では「誰もが楽しめる観光地づくり」を観光立町推進基本計画の主導施策のひとつとして、平成 23・24 年度にユニバーサル対応に関する調査と観光プログラムの開発、情報発信を行いました。具体的には、域内の観光事業者を対象にクラブツーリズムの専門家を招いた勉強会と観光資源調査、車いすや視覚障がい者へ向けたモニターツアーの実施、パンフレットやネットでの情報発信などです。
 そこで実感したのは、敷居が高いと思っていた事案も、ちょっとした工夫で対応できることです。これは危ないからダメ、ではなくとにかく受け入れたうえで、どうすれば安全に楽しんでもらえるのかを考える、という前向きさとアイデアの大事さを痛感しました。
 高齢者や障がい者は、普段は行けない旅へ行ける、体験ができるということへの感激や感動がひときわ大きく、だからこそ、提供するサービスにも特別の価値がある。そこに、普通のツアーとはまた異なった意味やチャンスがあると考えています。
 設備の整備や高齢者向け食事メニューなど、サービスの充実に早くから取り組むホテルや、森歩きに向いた車いすを用意したアウトドア・アクティビティ業者など、積極的な受け入れ業者も増えています。山の中、森の中、湖の上…富士河口湖町の豊かな自然を充分に満喫してもらう。それにはこういうサービスをすればいい、これで対応できるという事例をさらにつくっていくことで、より広い意識づくりを図りたいと考えています。
 2020 年へ向けてインバウンドに目が向きがちですが、高齢者、障がい者、ベビーカー利用の乳幼児連れやペット連れなど、取り組むべき旅のターゲットは他にも多々あります。ユニバーサルツーリズムに、新しい感動とビジネスを生みだす大きな可能性を感じています。

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